丹後新聞部

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コラム
2021.02.21

丹後暮らし探求記vol.4〜想像力を試される冬支度〜

はじめに「丹後の四季と暮らしをお届けします」

初めまして。丹後暮らし探求記をお届けする、老籾(おいもみ)ちひろです。私は京丹後市峰山町出身で、2018年にUターンして4年目。いまは実家の田んぼでお米を育てたり、弥栄町にあるオーガニックファームで働きながら食と農について教わったり、森と海に包まれた丹後の暮らしを謳歌しています。

京丹後出身の人、田舎への移住を考えている人、自然と繋がる生活を思い描く人へ。暮らしのあり方を探るきっかけになりますように。そんな願いを込めて、このまちの四季と共にある風景をお届けしています。


秋冬にやってくる「うらにし」

めずらしい雨の間の晴れ間

天気の変わりやすい、冬の日本海側。丹後地方では、秋から冬にかけての移ろいやすい気象を「うらにし」と呼びます。
さっきまで晴れていたかと思ったら、突然の雨。
また晴れたり、曇ったり、晴れているのに小雨が降ったり。


天気予報にも乗らない雨がさっと通って止んで、また降っての繰り返し。この気象を引き起こす正体は、秋冬に大陸からやってくる季節風にありました。だからこそ丹後弁では、雨の降り方を表す擬音もバリエーションが豊富。「しとしと」「ザーザー」の他に「雨がピリピリ降る」と言ったりします。


野良仕事をしていても、突然の雨に振られることもしばしば。何十年と丹後で暮らしているお年寄りたちにも、秋冬の天気は先が読めない様子。だからこそ「今は晴れているけど、すぐに雨に変わるだろう」と、まずここで想像力が試されます。丹後には「弁当忘れても傘忘れるな」という諺が残っているところにも、現れています。


このように厄介にも思える「うらにし」ですが、この気候がもたらす利点も計り知れず。例えば丹後地方の主力産業の一つである「丹後ちりめん」の発展にも、この「うらにし」が寄与していたのだそうです。この辺りは絹織物の一大産地。国内に流通する和装生地の6~7割が丹後地方で生産されているのですが、丹後がこのような産地になり得た背景の一つには、この町特有の湿度にあり。乾燥すると糸が切れてしまう絹織物を扱うには「うらにし」で湿度の保たれる風土が最適だったということです。


晴れの日が少ない秋冬の丹後は、気持ちまで曇ってきそうな時もあるものです。しかし、少し視点を変えて見ると、こんな気候にも不思議と愛着が芽生えてくるものです。

「もしも」に備える冬支度

想像力が試されるのは、うらにしへの備えに限らず。
10年ほど丹後を離れていた後のUターン一年目の秋、買ってきた苗木をウキウキしながら家の周りへ植えていたときのこと。「そんな所に植えたら、屋根の雪で潰れるどー」と祖母に場所替えを命じられました。

確かに、考えてみればその通り! 雪国で暮らす人は、冬場に雪が落ちてくるエリア、除雪で雪が溜まる場所をよく観察しています。そして、軒下や川との境目は避けて歩くということも。「そういえば、雪が降ることを何も考えてなかったな〜」と、しばらく丹後を離れて生活していたことを実感する瞬間でした。

他にも秋の終わりに始める冬支度は「もしも」を考える作業の繰り返し。実際のところ近年は雪が積もらない冬もあるほど、積雪量は減っているのですが、「もしも」の備えを行うのが雪の降る町のルール。

我が家の場合の冬支度といえば、
・庭木の雪吊りやこも囲い(寒さや雪で痛まないための対策)をすること
・冬を越せる分の薪を用意しておくこと
・必要品は寒波の前に買っておくこと

・もちろん車はスノータイヤへ履き替え

さらに、丹後の中でも沢山の積雪がある野間(弥栄町)のあたりでは、冬のはじめには雪から家を守るための「雪囲い」の風景が見られます。

そんな丹後の冬支度ですが、本格的な雪国と比べたら、大したことのない作業量かもしれません。しかし「降るか降らないか分からないけど備える」ってところが、丹後の冬支度のポイントだと感じるのです。なぜなら、最近の丹後では積雪が減っていて、冬支度の作業が無駄に終わる可能性も大いにあるからです。無駄に終わるかもしれない作業をコツコツやるって、なかなか根気がいるものです。そんな時も「もしも大雪が降ったら…」と想像力を膨らませてして備えるほかありません!

2年間、雪の降らない冬が続きましたが、今年は何度も積雪がありました。こたつから雪の積もる庭を眺めて「雪吊りやっといてよかったな〜」「買い物行かずに済んで助かった」とお喋りする家族団欒も良いものです。

海の幸は、冬がいちばん!

冬の丹後といえば、牡蠣、蟹、鰤、その他色々な海の幸。
蟹漁の解禁は11月6日と決まっています。だから、「コッペ蟹の茹で上がり時間」がスーパーへ掲載され始めると、「いよいよ冬の到来か〜」と実感します。ちなみにコッペ蟹とは、松葉蟹のメスのこと。間人蟹で有名な丹後ですが、地元の民には、リーズナブルなコッペ蟹が親しまれています。身の他にも、内子、外子、蟹味噌まで綺麗に食べます。もちろん殻は砕いて、家のニワトリへ。捨てるところがありません。

久美浜湾の牡蠣も、伊根湾の鰤も、冬が旬。
もちろん買って食べることもあれば、写真のように海辺のお友達が届けてくれる場合もあります。こんな時、我が家の場合はお米やお餅と物々交換。ありがたいローカルネットワークです。蟹や牡蠣の殻は、畑へまくこともありますよ〜 海のミネラルがたっぷり還元されます。

お正月の干し柿で、一年の占い??

少し「冬支度」のテーマからは外れますが、お正月についても少し取り上げてみます。
お正月は丹後においても、年末に餅つきとしめ縄づくり、お節づくり等を終えて新年を迎えます。

年が明けて元旦には家族が集まって新年の挨拶。食卓にはお節料理や善哉(ぜんざい)などのご馳走が並びますが、まずは高杯にのった干し柿を食べるのが我が家のルール。前の秋に取れた新米と柑橘を盛った器に、家族の人数分の干し柿を載せたこのセット。年の瀬になると鏡餅と共に床の間へお供えされているのです。

そして新年の挨拶をした後、まずは家族で干し柿を食べること。さらに、自分の食べた干し柿に種がいくつ入っていたのかと報告しあうのです。なんでも、干し柿の種の数で新しい一年を占うというもの。我が家の場合は「種がたくさん入っていたら、コメを沢山食べられる」と言われて育ちました。大人になって不思議に思い調べてみると、地方によって「種の数だけお金が稼げる」「幸せがくる」「服を沢山買ってもらえる」等々・・・それぞれ独自の”干し柿占い”が言い伝えられているそうですね。

占いの良い結果が「コメが沢山食べられる」って、なんとも我が家らしい・・・代々の言い伝えのように教わってきましたが、白米が大好きなおじいちゃんが作ったルールじゃないの??なんて疑ってみたり(笑)それだけ昔はお米がご馳走であり、お金であった表れなのかもしれませんね。 子供の頃は種が沢山入っていても特別に喜んだ気持ちもありませんが、コメ農家となった今では「いっぱい収穫できるかもねー!」なんて、祖父母と一緒に喜んでいるのです。

皆さんのお家にも、お正月の干し柿占いはありますか?
我が家ルールなのか、丹後ルールなのか、はたまた全国ルールなのか・・・
聞いてまわっても面白そうなテーマですね〜

ちなみに元旦の料理として食される定番のお雑煮ですが、丹後の場合は雑煮代わりに善哉(ぜんざい)を食べます。これは山陰地方が主流の文化だそうですが、お隣の丹後でも同じく善哉が正月のお雑煮代わりです。甘く炊いた小豆の中に丸餅を浮かべておかわり自由。石油ストーブの上に善哉の鍋がかけてあるので、三ヶ日は自由に善哉をよそって食べ続けます。お餅って、保存が効いて簡単に温めて食べられる昔ながらの便利なインスタント食品なんですね。休みを満喫するお正月には、そのまますぐに食べられる干し柿やお餅などの保存食が大活躍です。

来年のための保存食仕込み

梅本農場・梅本さん宅で糀づくりの風景です

食べるだけでなく、来年のための食の仕込みも冬の仕事。
冬の間に大豆を脱穀して、米糀をつくって、お味噌仕込み。
海水から塩を製造している丹後では、お味噌の材料が全て地域内で賄えます。今年84歳になる祖父は、塩もなたね油も自家製していた記憶を持つ世代。荷車に寸胴鍋を乗せて海まで歩いて塩を汲みに行って、家の釜でぐつぐつ焚いてお塩を作ったのだそうです。今の我が家は地元の塩を買って使っていますが、夫は「俺も塩作ってみたい」と興味津々。根気さえあれば、塩だって自給できるところです。

また、町内の醤油組合が残っている場合もあるようです。醤油組合とは、材料を持ち寄って共用の大きな樽を使って、みんなで醤油を作るグループのこと。いいな〜 私もいつか教わって、自家製お醤油を作りたいなと憧れているところです。まずは大豆畑を増やさないと!

杉樽で仕込んでから一年置いたお味噌は、
仕込みの時は大豆の香りがしていたのに、一年経つと全くの別物。
コクのふか〜い、独特な発酵の香りがします。
自家製のお味噌は、粗めの糀や豆の粒が残っているのも魅力の一つ。
二年もの、三年ものになるに連れ、色や風味も変化します。
来年のことを想像して保存食を仕込んだり、去年の自分の仕事に感謝しながら味わったり。「あっという間に一日が終わってしまった!」と忙しない日々ですが、保存食と向き合っている時は、時間の経過を嬉しく感じられるものです。

春夏、秋冬の二回来てほしい場所

「あの青い空と海はどこ行ったんや〜」
夏の丹後をみて移住を決めた人から、冬場の天気の悪さには裏切られたわ〜と、嘆きの声が聞こえてくることも多々・・・(笑) 私自身、夏の写真を見返す度に「こんなに色鮮やかな場所に住んでたっけ」と不思議に思うくらい、秋冬の丹後からは、鮮やかな色が消え去ります。一方で、食卓は冬に近づくに連れて豪華になることも。餅つき、しめ縄づくり、味噌や醤油仕込みなど、皆で行う仕事と宴会も増えて賑やかな季節です。

また、一言に丹後半島といっても場所によって冬の景色も様々。
寒波の特徴にも寄りますが、海辺の町は比較的に積雪が少なく、内陸部の方が雪が多いと言われます。

住みたい場所は、どれくらい雪が積もるんだろう。借りる家の水道管は、冬場に凍りやすい配置だろうか。この道は除雪車が通るかな? 地元の人に聞けば、冬暮らしの注意点も色々と教えてもらえます。

そして、冬の食を楽しみましょう♩
刺身と日本酒に魅了されて丹後暮らしを選んだという声も大勢。
寒さに触れて甘みを貯め込んだ冬野菜も揃っています。

ちなみに丹後暮らし探求舎の坂田さんは、
近年稀に見る丹後で大雪が降った年に、移住一年目の新生活を始めたそうです。
そんな坂田さんから冬エピソードを聞くのも、笑えて為になるから、とってもおすすめです!

少なくとも春夏 or 秋冬の2回。
丹後暮らしをご検討の場合は、冬の丹後も見に来て、味わってみてくださいね。

今回のコラムでは、冬支度や冬の暮らしについてご紹介しました。
今年はコロナ渦のため宴会や多人数での家仕事は制限された冬でした。
安心して集えること、そして、離れて暮らす方たちにも丹後へ行き来してもらえる日々がはやく戻ってきますように。