丹後新聞部

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コラム
2021.01.05

丹後暮らし探求記vol.3 〜この町で挙げる結婚式〜

はじめに「丹後の四季と暮らしをお届けします」

初めまして。丹後暮らし探求記をお届けする、老籾(おいもみ)ちひろです。私は京丹後市峰山町出身で、2018年にUターンして4年目。いまは実家の田んぼでお米を育てたり、弥栄町にあるオーガニックファームで働きながら食と農について教わったり、森と海に包まれた丹後の暮らしを謳歌しています。

京丹後出身の人、田舎への移住を考えている人、自然と繋がる生活を思い描く人へ。暮らしのあり方を探るきっかけになりますように。そんな願いを込めて、このまちの四季と共にある風景をお届けしています。


秋、自宅で挙式をしました

さて、唐突にわたくし事な話題ではありますが、先日11月のはじめに自宅にて結婚式を行いました。2020年3月に入籍した私たち夫婦。夫が私のふるさとである丹後へ越してきてくれて、夫婦で丹後暮らしを始めていました。

結婚式はなんだか恥ずかしいから、しなくてもいいかな〜と思っていたのですが、せっかく家族も楽しみにしているからということで。

長らく引っ越しがない田舎の家は、荷物が蓄積するばかり。
「皆で住む家を、イベントのために綺麗にするってのも良いんじゃないかな?」という夫の意見に賛成して、

1)これを機に母屋を大掃除!
2)二人が暮らす町へお金を回せるように
3)祖父母にとっても親しみやすく

と3つのテーマを決めて、自宅を舞台に結婚式を開催してみました。

昭和30年代 電話番号は3桁!

ちなみにこちらは、昭和38年に祖父母たちが挙式した際の記念写真。昭和38年といえば丹後では「サンパチ豪雪」と言われる年で、電柱がほとんど埋もれそうなくらいの積雪があったと聞きます。祖父いわく「麦の収穫が済んで、田植えする前の時分(じぶん)おばあさんが嫁にきた」のだとか。今でも毎年、記念日には二人で仲良くお祝いしています。

母屋と離れで隣り合って暮らす祖父母にヒアリングを重ねながら・・・
令和のはじめに私たちが拾い上げた”丹後スタイルの結婚式”とは、こんな様子になりました!

◆お嫁さんのお菓子とご挨拶

丹後の”お嫁さんのお菓子”

丹後出身の方にはお馴染み、お嫁さんのお菓子。丹後では挙式の日、式が終わってからご近所に「結婚しました。これからよろしくお願いします」とお菓子を持って挨拶にまわる風習が残っています。私たちも菓子袋に名入りカードを結んでもらって、結婚の挨拶にまわりました。
子供の頃は実家にたびたび出現した、お嫁さんのお菓子ですが、最近は随分と見かける頻度が減ったように思います。だからこそ「まぁ、久しぶりにもらって嬉しいわ〜」と言ってもらえて、お配りした自分たちもほっこり。

私たちは峰山町千歳にある山本商店さんで、お菓子を手配してもらいました。お店に入ると写真館なのか・・??と戸惑うほどにたくさんの結婚写真が飾られています。ショーケースにお菓子が色々と並んでいて、何を入れたいのかアドバイスをもらいながら選びます。めでたいパッケージのプクプク鯛のお菓子、よく兄弟で取り合いしたな〜

◆花嫁道具も丹後ちりめん

二つの布袋にご注目

この写真に並んでいる二つの袋。これは「お嫁さんのお菓子を配るための袋」です。なんと用途の限定的なこと・・!右が私にとっての祖母のもの、左が母のもの。祖父母をはじめ、親族は機屋(はたや)と呼ばれる商売をしていました。我が家に限らず、農家など家業の傍ら、丹後ちりめんに関係する仕事を持っていた家庭が大半ではないかと思います。我が家の場合は時代ごとに、養蚕(繭を出す蚕さんを育てること)や農家、醤油屋、会社員をしながら機織り、後半には着物の帯を織っていたそうです。


我が家は平成の初め頃に機屋を辞めたのですが、家の至る所に遺されたアイテムから、当時の名残りを感じます。 お菓子を配る袋のほかに、結婚祝いを渡す時のための袱紗(ふくさ)も発見。いずれも、自分たちが織っていた帯で、検品で通らなかったB級品を上手に加工して、祝い道具に仕立てたそうです。 袱紗は男性用、女性用で絵柄を使い分けているそうです。自分たちが織った布地を慈しんで、お祝いグッズに変身させた、どれも愛着を感じる物たちでした。 自分が結婚するまで話題にのぼることもなく、初めてみるものばかり。祖父母たちは「当たり前」と眺めている品々に、街の風土を感じますね。

◆めでたい日には、紅白餅!

さて、こちらはお馴染み(?)紅白餅。夫婦で春から育てた餅米でつきました。丹後も関西エリアということで、丸餅。祖父母が上手にまるめてくれたので、真空パックに詰めて、引出物と一緒にお配りしました。 昔は餅まきとか、やったんでしょうね〜 最近、餅まきも見なくなったなぁ。

◆食卓にお宝あつまる

この器のかたちは・・?

そして今回、出張で懐石料理を作ってくださったのは、峰山にある居酒屋ふかたべの隅野さん。 丹後の港から届いたお魚、近くの山で獲れた猪、そして、 隅野さんご自身が畑で育てた有機野菜がたっぷりと。 神経絞めという方法で魚を調理しておられるためか、歯応え抜群のお刺身。ふかたべさんオリジナル 丹後半島の器で御膳を用意して下さいました。

その他の漆器類は基本的にお家のもので、その名のとおり「蔵出し」を行いました。家のガレージにビニールシートを広げて器を洗っていると「うちの解体する蔵も見に来んか?」と声を掛けていただいたりして。また、お家に仕舞ってある婚礼用の漆器を貸してもらったりもしました。というわけで、丹後の蔵からお宝が集まる宴会となりました。

◆出立ち〜狛猫のいる神社へ

さて、祖父母の頃の挙式を踏襲するだけでなく「今らしさ」も少しは取り入れてみたり。 といっても、今では当たり前となった神社での御祈祷。祖父母の頃は家での三三九度の儀式が主流だったため、神社には行かなかったそうです。

我々はちかくの金毘羅神社でお世話になりました。美容師さんに「出立ち(でだち)」と呼ばれる支度をしてもらって、自宅から出発。ちなみに出立ちとは本来、お嫁にいく家から出立することを指すようです。私の場合は嫁入りするわけではないのですが、神社へ出立する際にご近所の方へご挨拶を。出立ちの時は、ご近所さんが家に集まるのが恒例だそうで、お祝いの言葉を掛けていただきました。


そして向かった先の金比羅神社。丹後の金比羅神社には、日本中を探しても珍しいという「猫」が狛猫となって鎮座しています。丹後ちりめんが産業の街において、ネズミは養蚕の天敵。そのネズミから蚕さんを守ってくれる守護神として猫が祀られているのですが、 最近では猫がシンボルのまちづくりが広まっています。猫好きならば、夫婦で狛猫と記念写真を納めても良いかも?

結婚式の引出物には、戸田風月堂さんに猫の紅白饅頭を作っていただきました。夫の親族には京都市内から来てもらったので、この街らしいお土産を楽しんでもらえて、良い思い出になりました。

戸田風月堂(峰山町)の狛猫のおまんじゅう

挙式とともに関係性を作るということ

というわけで、今回の丹後暮らし探求記は、丹後で新しい暮らしを始める二人の結婚式ばなしを綴らせていただきました。
このように”なるべく手作り”にこだわった挙式ではありましたが、随所でプロの手をお借りして、開催に至っています。そして挙式を作り上げてくださったプロたちも、丹後で家族とともに暮らす地域の一員。だからこそ、式に至るまでの様々なシチュエーションで、それぞれの結婚観や夫婦について、この街での子育てのこと、働くママとしての一面などお話を伺うことができて、「また新たにこの街で相談できる先輩に出会えて嬉しい」という気持ちになりました。

プランナーさん、美容師さんまで総出でありがとうございました・・!


Uターンするとき、まさか挙式のことなんて(というか結婚のことすら)気にしたこともなかったのですが、結婚式にも地域の風土が残っていること。望めば、それに寄り添って門出を彩って下さるプロが揃っているということ。これまで見えなかった、街の豊かさ、温かさを感じる出来事でした。

自宅での挙式に限らず、この街では今まで、ロケーションを存分に活かしたり、その夫婦のスタイルを全力で表現した結婚式が多様に開催されています。なぜなら、それを叶えるプロデューサーさんや様々な演出家が揃っているから。これを機に、他のご夫婦の結婚話やライフスタイルの探求記なんてのも、いいかも!

私たち夫妻の暮らしのみならず、他にも多様な丹後暮らしをお届けできれば幸いです。

【最後に】
挙式のプロデュースでは、ウエディングページさん(峰山町)
着付け、ヘアメイクは、美容院のbenchiヘアサロンさん(大宮町)
写真撮影は、KOKOIROさん(網野町)にお世話になりました。
ブログでの画像も、KOKOIRO井上さん撮影のデータを使用しています。